2014年08月06日

8月6日、祈る日。







生ましめんかな 

 詩・栗原 貞子


こわれたビルディングの地下室の夜であった。
原子爆弾の負傷者達は
ローソク一本ない暗い地下室を
うずめていっぱいだった。

生ぐさい血のにおい、死臭、汗臭い人いきれ、うめき声
その中から不思議な声が聞こえて来た。
「赤ん坊が生まれる」と云うのだ。

この地獄のそこのような地下室で今、若い女が
産気づいているのだ。
マッチ一本ないくらがりでどうしたらいいのだろう
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。

と、「私が産婆です、私が生ませましょう」と云ったのは
さっきまでうめいていた重傷者だ。
かくてくらがりの地獄の底で新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。
生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも

      







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Posted by やまさき あおい at 08:04Comments(0)ヨノナカヲ思フ